営業秘密保護・知的財産 退職金不支給条項及び返還規定について

退職金不支給条項及び返還規定について

退職金は、その支給要件や支給基準が就業規則等で明確に定められ、労働者と使用者との間の労働契約の内容となっていれば、使用者には退職金の支払義務があることになります。

かかる退職金は労働法上の「賃金」で、賃金の後払いといえます。

就業規則等に根拠がなく、支給されるか否かももっぱら使用者の裁量に委ねられ、退職金の支給が労働契約の内容になっていると認められないものについては、任意的恩給的給付であって、労基法上の賃金とはえいないとされています。

なお、退職時に一定の基準によって算定される金員の支給が繰り返された場合、その金員の支給は確立した慣行と認められる場合が多いようです。

ただし、労使慣行を否定した裁判例(大阪高裁平成27年9月29日(労判1126号18頁))もありますので、注意が必要です。

非違行為をした従業員に対する退職金を不支給または減額支給とすることは可能か
退職金不支給、減額条項の有効性について

使用者に支払義務があるような場合でも、退職金は賃金の後払としての性格とともに功労報償という性格を併せもっているのが通常であり、その功労報償的性格からして、勤務中の功労が抹消、減殺されるような場合には、退職金を不支給、減額支給とすることも許されるものと解されています。

  
退職金不支給・減額条項の限定解釈について

退職金は賃金の後払としての性格を有しており、労基法上の賃金に該当するとして、退職金不支給または減額支給とすることができるのは、労働者の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する場合に限られると解されています。

したがって、労働者からの退職金請求に対し、退職金不支給・減額条項の抗弁を主張する使用者としては、労働者のした非違行為が条項に該当することと併せて、その非違行為が労働者の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの背信行為に当たることを主張・立証しなければならないことになります。

退職金不支給・減額措置の当否の判断において考慮すべきポイントとしては下記の点が挙げられています。

  • ① 労働者の行為それ自体の背信性の強弱
  • ② 退職金の性格の中に功労報償的要素が占める度合い
  • ③ 使用者が被った損害の程度、被害回復の可能性や容易性
  • ➃ 労働者のそれまでの功労の大小
  • ⑤ これまでに退職金が不支給・減額となった事案の有無、内容(他の事例との均衡)
退職後に同業他社に転職した従業員に対する退職金を不支給又は減額支給とすることはできるか
当該退職金の不支給又は減額支給条項も合理性の基準を充たせば有効

この点、退職後の元従業員の競業行為の禁止、その前提として秘密保持義務の就業規則、誓約書による規制については、合理性の基準を充たせば、それらを規制する誓約書等の有効性が認められています。

したがって、有効性が認められれば、不支給又は減額支給条項に基づいて、退職金請求等に対応することになります。

ただ、就業規則の競業禁止規定の有効性が争われる事案では、使用者側から競業行為の差止めや競業行為による損害賠償が請求される事案があります。

競業行為の禁止等を規制する就業規則あるいは誓約書の有効性は、合理性の基準の対象となる判断要素を総合的に判断されますが、退職金の請求(競業行為による退職金の不支給又は減額措置の当否)については、退職金の不支給・減額を許容する根拠は下記のとおりその功労報酬的性格に求められています。

そこで、退職金請求に固有の要素として、退職金の性格(功労報酬的要素の強弱)や労働者のそれまでの功労の大小等が考慮されることになるものと考えられます。

したがって、賃金後払い的性格の強い退職金については,競業行為による損害賠償が認められる事案でも、退職金の不支給は許されないとの判断がなされる余地はあるとの指摘がなされています。

なお、就業規則に競業禁止規定が置かれていても、これに違反した場合に退職金を不支給又は減額支給とする旨の退職金不支給・減額条項が置かれていない場合には退職金を不支給・減額支給とすることは原則としてできないとされています。

  
最高裁昭和52年8月9日判決

退職後の同業社への就職の規制に違反した退職社員に支給すべき退職金につき、支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定める会社の退職金規則の有効性を判断した事案

会社が営業担当社員に対し退職後の同業社への就職をある程度の期間制限することをもって直ちに社員の職業の自由を不当に拘束するものとは認められず、したがって、会社がその退職金規則において、右制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給すべき退職金につき、その点を考慮して、支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも、本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない。

なわち。この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であると解すべきであるから」としています。

退職金の支給後に不支給事由が判明した場合、退職金の返還を求めることは可能か
  
退職金返還条項の規定がある場合について

退職金規程等に、退職金の支給後に懲戒解雇事由が判明した場合には退職金の返還を求めることができるという規定が置かれ、現実にも労働者に勤続の功を抹殺するほどの著しく背信行為が認められる場合は、この返還規定に基づいて退職金の返還を求めることができるものと解されています。

(大阪地裁昭和63年11月2日判決(労働判例531号100頁)

  
不当利得返還請求について

不支給条項の適用がある場合、退職金請求権は発生していないか、解除条件成就により消滅していますから、労働者は法律上の原因なく退職金を受領していることになります。

したがって、使用者は、退職金返還条項が存在しない場合であっても、不当利得に基づき、労働者に対し退職金の返還を請求することができることになります。

これに対し、労働者の方で退職金請求を争う場合には、退職金は賃金後払的な性格のものであるとの主張が考えらえます。

それに対しては、使用者は、労働者に勤続の功を抹殺するほどの著しく背信行為が認められると主張・立証することになります。

(不当利得に基づき、労働者に対して退職金返還請求できる根拠について)

そもそも退職金不支給条項は、退職金の発生要件(例えば懲戒解雇事由のないことを退職金請求権発生の要件とする)あるいは解除条件(例えば退職後に同業他社に転職したことを退職金請求権発生の解除条件とする、その条件が成就すれば、元従業員は退職金を受給できる資格が消滅し、退職金返還請求権が発生する)を定めるものと解されているからです。

  
退職金の不支給・減額を許容する根拠

上記最高裁昭和52年8月9日判決の趣旨に照らすと、退職金の不支給・減額を許容する根拠はその功労報酬的性格に求められます。

そうすると、退職金のうち、功労報償的性格を有する退職金に相当する部分については、営業秘密義務、競業避止義務に違反した退職従業員に対し、違反の程度等に応じて返還を求めることができるものと考えられます。

例えば、就業規則の退職金規程は功労報酬的性格の規定であり、元従業員に退職金を支給した理由が、元従業員が退職後も競業的行為が一定期間禁止されることになったことや守秘義務を負ったこと等に対する代償措置として交付された金銭である場合。

すなわち、元従業員に退職金として交付された金額が功労報償的な性格の金銭である場合は、最高裁昭和52年8月9日判決の趣旨に照らすと、退職後の守秘義務違反、競業禁止の特約違反の不支給条項の適用が認められれば、支給した退職金の全額の返還を求めることもできることになるのではないかと考えられます。

退職金不支給条項が存在しない場合と権利の濫用について

退職金が単なる任意的恩給的給付ではなく、賃金の後払としての性格を有し、労働者に退職金請求金が認められる場合、仮に、労働者に重大な非違行為があったとしても、退職金不支給条項が存在しなければ、使用者が退職金の支払を拒むことができないのが原則とされています。

ただ、退職金不支給条項がなくても、労働者において、それまでの勤続の功を抹殺又は減殺する程度にまで著しく信義に反する行為があったと認められるときは使用者は、当該労働者による退職金請求の全部または一部が権利の濫用に当たるとして、当該労働者に対する退職金を不支給または減額にすることができる場合があるとされています。(大阪地裁平成21年3月30日判決(労働判例987号60頁)

なお、退職金不支給条項が存在する場合も退職金は賃金の後払としての性格に照らし、退職金不支給または減額支給とすることができるのは、労働者の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する場合に限られると解されています。

そこで、退職金不支給条項が存在しない場合には、それが存在する場合より、高度の背信性が要求されるか判然としませんが、退職金不支給条項がないという事実それ自体が退職金の功労報酬的性格が弱い、その結果、当該退職金は賃金の後払的性格が強いと判断する方向に働く事情とされています。

退職金の支払いを拒否するためのハードルは職金不支給条項がある場合より高くなる場合が多いのではないかといわれています。

不支給条項の規定の仕方と適用の有無について

退職金不支給条項が「懲戒解雇された者には退職金を支給しない。」というもので、労働者が懲戒解雇されることなく、合意退職または依願退職をした後に、懲戒解雇に相当する重大な非違行為が発覚したような場合、もはや懲戒解雇はできません。

退職金不支給条項に該当する懲戒解雇された者との事実が存在しない以上、たとえ懲戒解雇に値する事由が存在していても、同条項の適用を主張できません。(東京地裁昭和57年11月22日判決(労働判例397号速報カード7頁)

この点、退職金不支給条項が「懲戒解雇事由があるとき」(懲戒解雇事由があれば、退職事由は問わない)とされているとでは大きな違いが生じることになりかねませんので、不支給条項の規定の仕方にも注意が必要となります。

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