自己破産 裁量免責と免責調査

裁量免責と免責調査

裁量免責について

破産手続が開始されたとしても、結果的に裁判所によって免責不許可の決定(債務の返済を免除しないという決定)が下されてしまうと、破産者は債務の支払いを免れることが出来なくなり、破産手続きを申し立てた意味がなくなってしまいます。

破産法にはいくつかの免責不許可事由が規定されており(破産法252条第1項)、免責不許可事由に該当する事情が存在する場合には原則として免責不許可となります。

もっとも,免責不許可事由に該当する事情が存在する場合であっても、裁判所が破産手続開始の決定に至った経緯等の事情を考慮して免責許可が相当であると判断した場合には裁判所の裁量によって免責決定ができることとされており(破産法252条第2項)、実務上は、免責の調査に誠実に対応するなどすれば、裁量免責が認められていることも多いです。

それでは、裁判所による裁量免責が認められる場合、または認められない場合とは、具体的にどういった場合なのでしょうか。

例えば、以下のような事例においては、裁量免責が認められませんでした。

(1)東京高裁平成26年3月5日判決
事例の概要は、破産者が代表者を務める健康医学社が詐欺的商法によって出資金を集め、健康医学社が支払不能の状態に陥った後に、破産者が整理屋グループに依頼してその指示に従って会社資産を他に移転させたというものです。
同時案について裁判所は、第一審では免責許可決定を出しましたが、抗告審において現決定を取り消し、免責不許可としました。
抗告裁判所は、裁量免責の可否における考慮要素として、①免責不許可事由該当行為の性質、②破産原因が生じるに至った経緯、③破産手続開始の決定後の事情、④破産者の今後の生活設計などの要素を明示したうえで、破産免責により破産者の経済的更生を図ることが社会公共的見地からも相当とはいえないと判断しています。
本事例は、債権者130名、債権総額11億6000万円という比較的規模の大きな破産事件であったことから社会的な影響が大きかった点、免責不許可事由とされた詐害目的での資産移転行為を整理屋グループを使って行っておりその動機が悪質で破産手続きに対する不誠実性が顕著であるとされた点、そもそもの破産原因が生じるに至った経緯が、資産価値のない鉱泉権等を担保にするとして出資法違反の出資募集行為を行い多額の借り入れをしたという悪質な態様であった点から、社会公共的見地から免責を認めることが相当でないと判断されたものと考えます。
なお、判例の中では、③の破産手続開始決定後の事情として、破産管財人の調査に協力した点については不誠実性を減殺する事情とされていますが、悪質性が減殺されるとしても程度問題であり限度があるとされています。
(2)千葉地裁平成29年4月20日判決
事案の概要は、破産裁判所が同時廃止決定をしたところ、破産債権者からの免責意見により破産者が2か月前に離婚して復氏していた事実が判明したため、同裁判所は破産者の氏及び住所に関する更正決定をし、その後裁量免責としましたが、破産債権者から、破産者が離婚等の事情を秘していたことに加え、離婚に伴って破産者が解決金を受領した事実を指摘して即時抗告を申し立て、抗告裁判所が免責不許可としたものです。
同裁判例は、免責不許可の理由を以下のように述べています。
すなわち、「①離婚およびこれに伴う復氏の事実を秘匿して破産申立てを行うことは、架空の別人格を破産者として免責等の効果を生じさせる一方で、自らは破産手続きとは関わりのない者として生活していくことを企図したものといえ、破産手続に対する社会の信頼を著しく損なうものであること、②離婚およびこれに伴う復氏の事実が明らかになった際にも解決金の受領について一切申告しておらず反省の情もうかがわれないこと、③解決金の受領が明らかになったのは破産手続きが終了した後であり、しかも破産債権者の独自の調査がなければ破産者が秘匿していた事実はいずれも明らかにならなかったと考えられ、同時廃止による破産手続の公正かつ迅速な遂行に与えた影響は多大である」
同裁判例は、破産管財人がつかない同時廃止の破産手続において、抗告裁判所が免責不許可とした珍しい事案です。
同時廃止事案においては、破産管財人による調査はなされないため、破産者による報告や資料が誠実になされていることを前提として運用せざるを得ないところ、重要事実に関する虚偽報告が明らかになり、さらにその後も解決金の受領について説明しないといった不誠実な対応を重く見て、免責不許可の決定を下したものと考えられます。
同裁判例も、事案としては前記東京高裁26年裁判例が規範として挙げる「社会公共的見地から免責を認めることが相当とはいえない」事案<といえ、免責不許可の決定もやむを得ないといえるでしょう。

上記の裁判例から、裁量免責が認められない事案とは、総合的に考慮して「社会公共的見地から免責を認めることが相当」とは言えない事案であり、破産者としては、破産原因や免責不許可事由が悪質である場合には、免責不許可の決定が下されることも覚悟しておく必要があるといえます。

また、いずれにしても、破産手続き決定後の事情は裁量免責を行うかどうかの要素として考慮されますので、裁判所や破産管財人の指示に誠実に対応することが重要となります。

免責調査について

裁判所は,管財人に対し,免責不許可事由の有無または免責許可の決定をするかどうかの判断にあたって考慮すべき事情についての調査をさせ,その結果を書面で報告させることができます(破産法250条)。

管財人が行う免責調査(財産の隠匿,著しく不利益な条件での財産の処分,債権者名簿の虚偽記載,浪費や射幸行為によって財産を減少させる行為の有無等)の方法としては,以下のような調査がなされます。

(1)預貯金通帳の調査
預貯金通帳等を調査する際には,以下のような記載に着目して調査が行われます
① 入出金がある場合,それぞれ債権債務の存在が推測されます。特に多額の入金があり,費消されている場合には,浪費の可能性が推測されます。
② 普通預金の項目に「積立」がある場合,積立用の別口座の存在が推測されます。
③ 申立書記載の保険会社以外の保険会社の引落があれば,他の保険の存在が推測されます。
④ 固定資産税の引落がある場合,不動産の存在が推測されます。
⑤ 通常残高がマイナスの場合,銀行が債権者であることが推測されるとともに,担保となる定期預金の存在が推測されます。
⑥ ゆうちょ銀行に関しては上限1000万円までという制約がありますが,上限を低く設定した通帳が出てくる場合があり,この場合には別の口座が存在する可能性があります。
⑦ 給与の振込口座,公共料金の支払い口座,家賃の支払い口座の通帳が提出されていない場合,他の口座の存在が推測されます。保険の解約返戻金を受領しているのに通帳にその記載がない場合,他の口座の存在が推測されます。
(2)給与明細の調査方法
各種控除欄,積立金,財形貯蓄,保険,持株会の控除などの調査により,申立書に記載のない資産が発見される場合があります。
(3)会計帳簿等が廃棄されている場合の調査
業務に使用していたパソコンが残っている場合には,経理データについて内容が精査されます。
破産者が会社や個人事業主である場合に,顧問の税理士等いる場合には顧問税理士に確認を取って経理データを提出頂き調査する場合もあります。
帳簿類が発見できない場合には,銀行口座の動きから資金調査を行います。
その際,通帳がないような場合には,金融機関から元帳を取寄せて調査される場合があります。
当座預金口座の場合は通帳に詳細な取引履歴の記載がない場合もあり,その場合には当座勘定照合表の取り寄せを行い調査がなされる場合もあります。
さらに,管財人は破産者の管轄税務署で添付書類を含む申告書類の閲覧ができますので,貸借対照表や減価償却資産明細表などの記載から破産者が保有している資産の確認を行います。
管財人によっては,従業員や取引先に対して事情聴取を行う場合もあります。
(4)破産者自身に対する聴取
破産者の浪費の内容が不明であるような場合等,破産者自身に具体的な説明を求めることがあります。
その際,客観的な証拠と照らし合わせて説明の内容が不合理である場合や,不自然な説明に終始するような場合には,破産者のそのような対応自体が説明義務違反(破産法252条第11号)として免責不許可事由に該当することになります。

免責調査においては,管財人により以上のような調査がなされます。

この点,免責不許可事由のうち裁量免責とならないような場合とは「1免責不許可事由について」で述べたとおり,「社会公共的見地から免責を認めることが相当とはいえない」<と認定される場合事案であり,そのように認定される大きな要素として,管財人や破産裁判所に対して調査に協力する姿勢の有無が挙げられます。

したがって,破産手続きの申し立てを行った際には,破産者は,管財人や裁判所の調査に積極的に協力する必要があります。

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