企業法務 株式会社の機関設計

2021/01/29
企業法務 株式会社の機関設計

会社法における機関設計の柔軟化

会社法が施行された平成18年5月1日までは、旧商法下の規定の中の旧第2編「会社」において、会社に関するルールが定められておりました。会社の機関設計についても、旧商法下の第2編「会社」に定められており、大会社、中会社、小会社という形で、会社の規模によりいくつかの決められた機関設計モデルを採用する必要がありました。

 

一方、会社法においては、一定のルールの下ではありますが、会社ごとに自由に機関設計ができるようになりました。これを会社法における機関設計の柔軟化と呼んでおり、このように自由化がなされた以上、経営者もしくは株主としては、会社の成長過程や意思決定プロセスの変更に応じて、機関設計を見直す必要性が出てくることがあります。

 

会社の成長過程に応じた機関設計

会社法上、39パターンの機関設計が可能ですが、このような多様な機関設計が可能になったことで、会社の成長過程に応じた機関設計の見直しが可能となっています。

 

例えば、以下のような会社の成長過程に応じた機関設計の変更が考えられますので、会社の体制の見直しをお考えの中小企業の経営者様は、ご一考され、当事務所の弁護士にご相談ください。

 

新しく会社を設立する段階
(代表取締役が1人で会社を設立)
取締役だけの会社を作ることが想定されます。
会社の規模が拡大し、設立時とは別の出資者を募ったり、金融機関から借り入れをする段階 ■取締役会を設置するパターン
■監査役を設置するパターン
■会計参与を設置するパターン
 等の組み合わせが考えられます。
会社がさらに大きくなって、監督コストも吸収できるようになり、そのメリットもでてきた場合 会計監査人を設置。場合によっては、監査役会を置いて社外取締役を招くことも考えられています。
大会社になった場合 監査役(もしくは監査役会)や会計監査人の体制を整備し、株式の公開に備えます。
株式の公開をした上場企業 ■監査役会設置会社(取締役会+監査役会+会計監査人)
■委員会設置会社(取締役会+三委員会+会計監査人)
2つのタイプのうちいずれかを選択することになります。

株式・出資金関連(種類株式の発行等)

会社は、会社法108 条に定められている権利内容の様々な種類の種類株式が発行可能です。種類株式の内容について、定款への記載が必要です。

 

  • 【1 号】配当優先株式、劣後株式
  • 【2 号】残余財産分配優先株式、劣後株式
  • 【3 号】議決権制限株式
  • 【4 号】譲渡制限株式
  • 【5 号】取得請求権付株式
  • 【6 号】取得条項付株式
  • 【7 号】全部取得条項付株式
  • 【8 号】拒否権付株式
  • 【9 号】役員選任権付株式

 

種類株式の組み合わせにより、事業承継や資金調達のうえで、様々なニーズに対応することができるため、種類株式の活用のために、御社の実情やニーズに応じて、アドバイスを差し上げます。

 

例:種類株式活用の具体例|取得条項付株式「相続人間による経営に関する対立を防ぐために」

 
取得条項付株式(会社法108条6号)とは、会社が、一定の事由が発生したことを条件に、株主の有する株式を株主の同意を得ることなく(強制的に)取得することができる権利が留保された株式のことです。
 
この取得条項付株式を使って、会社の定款に定めることにより、オーナー企業の株主の相続人が複数いる場合に、相続によって株式が相続人に分散して保有されることになる事態を回避するため、相続によって株式を保有することになった株主から、会社が強制的にその株式を買い取ることができる旨の定款の規定を設けることが考えられます。
 

A社|XとYの2人の兄弟株主

持分割合はXが70%、Yが30%であったとして、Yの相続人は妻1人であったとします。しかし、Yの妻とXは非常に仲が悪かったとするとします。そのような場合に、Yの死後にA社の経営を円滑に行うために、Yが死亡してYの妻がA社の株式を相続する事態を想定して、定款に定めることにより、相続によって株式を保有することになった株主から、会社が強制的にその株式を買い取ることができる仕組みを作っておくことが考えられます。
上記のような取得条項付株式の定めをしたことにより、以下の事例のようなことも考えられるため、十分注意が必要です。
 

Q社|AとBの2人の株主

持分割合はAが90%、Bが10%であったとします。Q社の経営は、実質的にはAが行ってきており、BはAの会社設立前からの友人であったとします。このケースで、AはBが死んだ場合に備えて、取得条項付株式を使って、「相続人からの株式買取請求」の規定を定款に設けておいたところ、Aの方がBよりも先に亡くなった場合に、Aの意図としては、Aの配偶者や子供などの相続人がQ社を継承していくことを望んでいたにもかかわらず、Aの相続人は、株式の買い取り請求を受けてしまい、結局BがQ社の経営権を握るという事態も考えられるのです。このような事態を防ぐには、単純に取得条項付株式を使って、「相続人からの株式買取請求」の規定を定款に設けるのではなく、AがAの死後にQ社を継承して欲しいと望む者に、生前にある程度のQ社株式を移転しておく等の対策を講じておく必要があります。
 

議決権制限株式「事業承継への活用例」

 
議決権制限株式(会社法108条3号)とは、株主総会において議決権を行使することができる事項について、他の株式と異なる定めをした内容の株式です。
議決権制限の内容としては、議決権が全く無い無議決権株式とすることも可能ですし、例えば、取締役選解任等の一定の決議事項のみ議決権を与えたり、与えなかったりすることができ、議決権行使に条件を定めることも可能です。
この議決権制限株式は、多くの利用方法が考えられますが、事業承継を円滑にするために活用する方法も考えられます。
 

S社|代表取締役社長である甲が100%株式を保有していたとします。そして、甲には、乙、丙、丁という3人の息子がいる

代表取締役社長である甲が100%株式を保有していたとします。そして、甲には、乙、丙、丁という3人の息子がいたとします。
甲社長は、自分の年齢と息子の成長に鑑み、現段階でS社の経営を長男である乙に任せたいと考えたとします。
そこで、甲は、株式のうちの50%を議決権制限株式(会社法108条3号)として、その議決権制限株式(会社法108条3号)は引き続き保有し、残りの議決権のある50%の株式を乙に贈与すれば、全株式を乙に贈与する場合に比べて、贈与税の節税効果が期待できます。乙としても、議決権のある50%の株式さえ贈与を受けられれば、S社の経営においては何ら不自由することはなく、安心できるはずです。
さらに、甲から乙に、議決権の制限がなされていない株式の贈与がなされた後、甲が死亡しても、甲の相続財産であるS社の株式は、議決権制限株式ですので、その遺産分割協議の帰趨に関わらず、すなわち会社の経営権を巡る、乙丙丁間の兄弟げんかを未然に防ぐことができ、S社は安定した経営を営むことができるのです。

相談や予約など
お気軽にご連絡ください

平日の夜間相談対応
土日祝日も相談予約可能

営業時間 9:00〜18:00(土日祝は定休日)
※平日の夜間相談は、22時(相談終了時刻)まで可能です【要予約】

WEBからのご相談はこちら