2018年(平成30年)を迎えた現在の日本においては、少子高齢化や核家族化が大きな社会問題となっています。高齢化が進むことで認知症を患う高齢者が増加し続けており、早急にそれに対応していくことが、社会として取り組むべき重要な課題といえます。
このような高齢者に対するさまざまな問題への取り組みが積極的に行われ、また支援する制度も多く現れています。
成年後見制度で認知症をサポート
成年後見制度というのは、認知症や、知的障害、また精神障害などの精神上の障害によって、判断能力が十分でないために、生活をしていく上で不利益を被ってしまうことがないように、家庭裁判所に申し立てをし、その人を援助しサポートをしてくれる人を選任してもらう制度です。
身寄りがなく一人暮らしをしている高齢者が、認知症などを患ってしまい判断能力が著しく低下しまっていたために、悪質な業者による押し売り販売や、詐欺などによって多大な被害を受けてしまったといった問題が急増しており、深刻化していることは最近よく耳にします。
また自分自身の財産を管理する能力が不十分となってしまったために、全財産を使い切ってしまったり失ってしまったりして、途端に生活に困窮してしまうという事態もおこっています。
成年後見人制度は、認知症であったとしても、日常の生活についてはできるだけ本人の判断に任せるという自己決定の尊重、また残存能力の活用をすることで自由に行動をする環境を守りながら、認知症だからといって特別扱いはせず、出来得る限り一般社会の環境の中で生活をしていくことができるようにサポートをしていくという、ノーマライゼーションの理念を趣旨としています。
認知症の定義
認知症というのは、病名ではありません。さまざまな脳における機能障害が現れてはいるものの、原因がはっきりとせず特定することができないため、名前をつけることができないのです。そのためこれらの症状をまとめて症候群とし、認知症と呼ぶようになりました。
以前は痴呆症と呼ばれていましたが、平成17(2005)年6月29日から厚生労働省が一般的に使用するには不適切な言葉であるとして改められ、「認知症」と呼ばれるようになりました。
認知症の定義は「いったん獲得した知能が、脳の神経細胞が破壊されたり失われたりすること(器質的変化)によって障害を受けて、知能が衰退し崩壊し失われた状態である」とされています。
軽度認知障害(MCI)とは
日常生活をする上で、特に支障はきたしてはいないものの、記憶力などの認知機能がひとつだけ低下してしまった状態のことを「軽度認知障害(MCI)」といいます。軽度認知障害は、現在生活する上では特に問題はありませんが、放置したままでいると、認知機能はますます低下し、いずれ認知症を発症してしまうおそれの高いものです。
この段階で治療や予防を始めると、認知機能の低下を遅らせることができる可能性もあります。
認知症の主な種類と特徴
認知症と一口でいってもさまざまな種類があります。よく耳にするのが「アルツハイマー型認知症」です。また「脳血管性認知症」、「レビー小体型認知症」などがあり、その他にアルコール性認知症など、いくつかの種類があります。
アルツハイマー型認知症
認知症と呼ばれる症状で、約6割がアルツハイマー型認知症です。原因は未だに明らかにはされていませんが、アルツハイマー型認知症は、脳自体が実際に変化してしまうため、神経細胞が著しく減少してしまい、脳が萎縮してしまうのです。
アルツハイマー型認知症の主な原因は、遺伝子によるもの、まじめすぎて仕事一筋などの性格によるもの、趣味がない、友人が少ないなどが推察されています。
アルツハイマー型認知症の主な特徴をあげてみました。
- 70歳前後
- 女性に多い
- まだらに進行する
- 運動機能の低下が身体全体的におこってくる
- もの忘れの自覚がない
- 感情表現が乏しくなってくる
- ものを取られたなどの妄想をするようになる
- 独り言をいう
- 人格が変わりやすい
- 徘徊をする
- 異常な行動をするようになる
- 画像診断で能の萎縮が見られる
アルツハイマー型認知症の発症は突然ではなく、記憶障害からはじまって徐々に進行していきます。
脳血管性認知症
脳血管性認知症は老化などによって、脳動脈硬化がもとで、脳梗塞や脳出血が起こってしまったために、脳細胞へ酸素や栄養が届かなくなってしまうことで発症するものです。一度の発作で起こってしまう場合もありますが、自覚症状を伴わない程度の小さな脳梗塞が多発して起こり続けた結果、発症した認知症のことは、多発梗塞性認知症と呼ばれています。
脳血管性認知症の主な特徴をあげてみました。
- 50代前後
- 男性に多い
- 急に発症し階段状に進行する
- 運動の機能の低下はまだらに起こる
- しびれ、まひ、動きが鈍くなる
- 初期ではもの忘れを自覚している
- 人格は保たれやすい
- 夜間せん妄が起こりやすい
- 感情の制御が困難となる
- 画像診断で梗塞などの病巣がみられる
レビー小体型認知症
レビー小体というタンパク質の固まりが、脳の中に現れるとパーキンソン病になります。そしてさらにレビー小体が脳に広がっていくとレビー小体型認知症になります。レビー小体型認知症(DLB)の原因はまだ明らかにはされていませんが、幻覚や幻聴が起こり、手が震えたり歩行機能の障害を引き起こしたりすることがあります。
レビー小体型認知症の主な特徴をあげてみました・
- 70代前後
- 男性に多い
- 悪化、小康を繰り返しながら進行する
- 視角の障害が起こる
- 幻視、幻聴、妄想などが起こる
- 歩行障害がおこる
- 睡眠時の行動に障害がおこる
- パーキンソン病の発症
- うつ病の発症
- 画像診断では能の異常の確認はできないことが多い
認知症の主な症状
認知症の症状は、主に中核症状と周辺症状二つの種類に分類することができます。
中核症状というのは、認知症になると必ず見られる症状のことで、脳の神経細胞が破壊されてしまうことで起こります。中核症状には、記憶障害、見当識障害(失見当識)、理解能力の障害、判断力の障害、実行機能障害、失語・失行・失認などがあります。
また周辺障害というのは、中核症状に伴って起こりうる、異常な行動や精神症状のことをいいます。英語で「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」、略してBPSDと呼ばれています。
周辺症状であるBISDの主なものは、不安、抑うつ、妄想、無気力、幻覚、幻視、せん妄など精神症状、また徘徊、暴言、暴行、睡眠障害、不潔行為、など行動障害がみられます。
中核症状と周辺症状は、その人個人個人で、今置かれている状況や環境、また性格や病気など、それぞれの理由によって起こってくるものです。そのため、解決方法はひとつではなく、その人によって違うことを忘れてはいけません。
成年後見人制度の積極的に活用して安心
高齢化が進む中、認知症は重要な問題となっています。人が社会で生活している以上はどうしても避けて通ることはできません。自分や身近な人が元気なうちは、どこか遠いところの話しのようで実感がまるで伴いませんが、それはとても近くまで迫ってきている現実の話しなのです。
周りに家族がいて常に助け合って生きていける環境は、今ではずいぶんと少なくなってきています。年老いて一人暮らしをせざるを得ない場合、頼る人もなく、この先認知症などの不安を抱えながらどうやって生きていくべきか、これはとても切実な悩みです。
成年後見制度はこのような深刻な問題を、少しでも解決するべく生まれました。認知症高齢者の財産を守るだけではなく、生活面においても補助があるこの制度を、積極的に活用することで、少しでも未来に安心を得ることができるのです。