個人再生する場合に勤務先からの借金を返済することはできますか


個人再生する場合に勤務先からの借金を返済することはできますか

個人再生を利用する場合、基本的に勤務先に手続の発覚することはありません。

しかし、個人再生の手続を進める過程において、何らかの原因により勤務先に手続の事実を知られることがあります。

その典型例は勤務先から借金している場合です。

個人再生において勤務先からの借金だけを返済することは禁止されます。

そのため、任意の返済、給与天引きによる返済に関わらず、個人再生を進めるには勤務先の借金の返済をストップしなければなりません。

勤務先に知られたくない、勤務先に迷惑を掛けたくない気持ちは十分に理解できますが、個人再生において勤務先から借金している場合には、基本的に返済を続けることはできないことを知っておきましょう。

以下、詳しく解説します。

どうして個人再生において勤務先の借金だけを返済してはいけないの?

個人再生の手続では、原則、全ての債権を対象に各債権者を平等に扱う必要があります。

そのため、勤務先からの借金だけを返済することは他の債権者との平等を害する行為にあたるため禁止されているのです。

3 給与天引きにより自動的に返済することもダメなの?

勤務先の借金だけを返済することは禁止されると聞くと、債務者の意思により返済する行為だけ禁止されているようにも思えます。

しかし、給与天引きのように毎月の給料から一定額自動的に返済することも、やはり他の債権者との平等を害することには変わりありませんから、やはり禁止されます。

そのため、個人再生の手続を利用する場合には、勤務先に対して、給与天引きによる返済をストップしてもらうよう伝える必要があります。

ちなみに、労働者の給料の支払については、労働基準法において全額払いの原則なるルールがあり、使用者による一方的な給与天引きは違法行為になります。

もし、労働者である債務者の同意なく給与天引きしている場合には、個人再生のために天引きをストップしてもらうための話し合いの中で違法行為であることを指摘すべきでしょう。

もしも勤務先からの借金を返済してしまったらどうなるの?

それでは、個人再生において、禁止されている勤務先の借金の返済を行ってしまった場合には、具体的にどのようになるのでしょうか。

以下、個人再生手続の開始前の返済と開始後の返済に分けて説明します。

個人再生手続開始前の返済

個人再生の申立を門前払いされてしまうリスクがある!

まず、法律上、個人再生手続開始前に勤務先からの借金を返済すること直接禁止する規定はありません。

しかし、勤務先の借金だけを返済することは、上述のとおり、他の債権者との平等を害するため、破産や通常の再生手続では否認権の対象になります。

否認権とは、対象行為の効力を否定して、原状に戻すことのできる権限です。

もっとも、個人再生では、そのような否認権の制度はありません。

そのため、破産における否認権の行使を回避するために勤務先だけに多額の返済を続け、再生手続の申立をしたような場合には、個人再生の申立を棄却されることがあります。

個人再生による返済すべき借金の総額を増やしてしまう!

個人再生手続では、借金の総額に応じて算定される法律上の最低弁済額と破産した場合の借金の返済に充てられる財産の評価額(これを清算価値といいます。)の多い方を返済することになります。

勤務先からの借金だけを返済した場合、その金額を清算価値に計上して、結果的に再生により返済すべき借金総額を増大させる可能性があります。

そして、その額次第では、再生計画の履行を困難にしてしまうこともあります。

たとえば、借金総額600万円(うち、勤務先からの借金150万円)、財産としては100万円の自動車1台を保有している場合、最低弁済額は600万円の20%にあたる120万円となり、これは清算価値の100万円より多いため再生手続では120万円を3年間で分割返済することになります。

このとき、たとえば、再生手続開始前に勤務先だけに150万円の借金を完済してしまったときには、清算価値として150万円を計上され、250万円を36回で分割返済することになってしまいます。

個人再生手続開始後の返済

個人再生手続開始後は、法律により、勤務先の借金の返済は直接禁止されます。

もし返済した場合、その返済は無効ですから、勤務先は有効に返済を受けたものではないため債務者に渡されたお金を返還しなければなりません。

債権も債務者の1つの財産権ですから清算価値として計上されます。また、返済の額が多額の場合には個人再生の手続自体が認められなくなることもあります。

これは給与天引きの形で返済する場合でも同様です。

公務員、私立学校の教職員の共済組合からの借金の返済

公務員の共済組合からの借金や私立学校の教職員の日本私立学校振興・共済事業団からの借金については、一般の会社同様に給与の天引きの形により借金を返済している場合があります。

このような特殊な勤務先からの借金の場合でも、不公平な返済を禁止されることは他の借金と同様です。

したがって、上記のような借金でも、やはり給与天引きによる借金の返済をストップさせる必要があります。

6 どうしても勤務先の借金を返済したい場合には第三者弁済を利用する!

以上のとおり、個人再生手続を選択した場合、手続の開始前・開始後を問わず、勤務先からの借金の返済は禁止されます。

それでは、どうしても会社に迷惑を掛けたくないなどの理由から勤務先からの借金だけは返済したい場合、どのような対応方法があるでしょうか。

そのような場合には債務者以外の親族などの第三者により勤務先の借金を完済してもらう方法があります。

債権者の平等は、個人再生手続を選択する債務者本人の財産から特定の債権者だけに返済する限度において維持されるルールです。

したがって、債務者以外の第三者の財産から特定の債権者だけに返済することは不公平な返済には当たらないため禁止されません。

但し、第三者に勤務先の借金を返済してもらう場合には、返済のために使用する金銭・財産が債務者のものであれば、実質は不公平な返済になってしまいますから、そうならないように十分注意しましょう。

まとめ

個人再生では、全ての債権を対象として各債権者を平等に扱いますから、勤務先からの借金だけを返済することは禁止されます。

勤務先からの借金を給与天引きの形により返済している場合でも同様に不公平な返済にあたるため禁止されます。

個人再生を利用する際、給与天引きにより勤務先の借金を返済している場合には、会社にストップするよう伝える必要があります。

もしも、個人再生において、勤務先の借金だけを返済した場合には、最悪個人再生の申立は棄却され門前払いされます。

そうでなくとも、個人再生により返済すべき借金総額に上乗せされ、再生計画の履行を困難にさせるリスクを生じさせます。

どうしても勤務先の借金だけを返済したいというときには、第三者の財産から勤務先の借金を返済してもらう方法があります。

このように、勤務先から借金のある債務者が個人再生の手続を利用しようとする場合には、いくつか注意すべき点があります。

自分自身の判断により勤務先の借金だけを返済することは思わぬ不利益を生じさせることになりますから、必ず弁護士に相談して適切な指導と助言を受けた上での対応を心掛けるようにしましょう。

弁護士法人 高田総合法律事務所

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